19.アサリ(Venerupis Semidecusata・Deshayes)水煮缶詰の黒変に関する化学的研究-Ⅲ
シスチン分解に及ぼす有機酸の影響

アサリ肉中にかなり多量含有している有機酸類が加熱の際にシスチンの分解にどのような影響を及ぼすかについて実験を行なったのでその結果を以下に報告する。生アサリの有機酸は、プロピオン酸24.4 mg%,酢酸33.0mg%,ピルビン酸103.8mg%,コハク酸147.5mg%,乳酸4.2 mg%,ピログルタミン酸14.2mg%,シュー酸59.4mg%,リンゴ酸32.8mg%,クエン酸2.1mg%を含んでいた。また缶詰にしたアサリはプロピオン酸1.3mg%,酢酸2.4mg%,ピルビン酸2.6mg%,コハク酸31.6mg%,乳酸1.6mg%,リンゴ酸1.1mg%,クエン酸0.1mg%,シュー酸0.4mg%のそれぞれを含んでいた。鮮度に関係がある乳酸量はわずかで、缶詰にした場合、各有機酸は非常に減量している。アサリの有機酸、シスチン、システイン含量をもとに行なった有機酸のシスチン分解に及ぼす影響の結果、シスチン、有機酸量と生成硫化水素量に最も相関が強いものは酢酸であり、鮮度に関係がある乳酸あるいはアサリに最も多く含まれているコハク酸には殆どその相関が無かった。また、55℃7日間保存すると、各有機酸とも生成硫化水素量を増加させる傾向があった。すなわち、各有機酸は除々にシステンを分解していくものと考える。これらは糖、無機リン、pHよりはるかに大きく影響を及ぼし、生成硫化水素は後者のそれよりも3〜10倍量であった。以上の如く有機酸も、アサリ水煮缶詰の黒変に関与しているものと考える。

著者
長田 博光、岡屋 忠治
出典
東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書,144-150(1965)