イチジク由来タンパク質分解酵素の品種特性の調査

背景・目的

 イチジクの樹液や植物体はタンパク質分解酵素を豊富に含み、古くから食肉軟化剤などに用いられてきました。主要な酵素としてフィシンがよく知られていますが、近年ブラウン・ターキー種のイチジクにおいてコラゲナーゼ(コラーゲン分解酵素)の存在が確認されました*。本研究では、他の品種のイチジクにもコラゲナーゼが含まれるかを調べるため、当研究所で栽培している様々な品種のイチジクのフィシンとコラゲナーゼの活性を比較しました。
* Brankica Raskovic et al., J. Biosci. Bioeng. 118:622-627 (2014)

方法・結果

 酵素活性測定の基質には、ペプチド様の合成基質MOCAc-KPLGL(Dpa)-ARを用いました(図1.)。この基質は、フィシン・コラゲナーゼ両方の基質となり、分解を受けると蛍光を発します。そこで、分解に伴う蛍光強度変化の大きさを測定し、タンパク質分解活性と定義しました。まず、国内の主要栽培品種である桝井ドーフィンの枝から抽出した粗酵素溶液について活性を測定しました。ここで、酵素阻害剤の1種であるE-64の濃度を徐々に上げていくと、活性が減衰したものの、一定の活性が残存しました(図2.)。E-64はフィシンを阻害しコラゲナーゼを阻害しない性質を有することから、この残存活性がコラゲナーゼの活性と考えられました。

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図1. 合成基質MOCAc-KPLGL(Dpa)-ARの構造式。
酵素によってペプチド結合(赤色三角形)のいずれかが切断されると、蛍光団と消光団が切り離され、蛍光を発する。

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図2. フィシン阻害剤E-64による桝井ドーフィン枝粗酵素溶液の阻害試験。
E-64非存在下の活性を1とした相対活性を示した。E-64に阻害されず残存した活性がコラゲナーゼの活性と考えられた。

 次に、当研究所の農場で収穫した23品種のイチジク枝の粗酵素溶液を調製し、E-64あり、E-64なしの各条件で活性を測定しました。結果、いずれの品種においてもE-64による活性の減衰は確認されたものの、残存活性も確認されました。このことから、23品種のイチジク枝すべてにコラゲナーゼが含まれることが示唆されました。また、各品種のフィシン活性、コラゲナーゼ活性をプロットしたところ、両活性に相関は確認されませんでした(図3.)。

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図3. 23品種のイチジク枝粗酵素溶液のフィシン活性とコラゲナーゼ活性の比較。
それぞれ最大の活性を示した品種を1とした場合の相対活性を示した。各番号は表の品種名に対応。

 今回の結果から、フィシンだけでなく、コラゲナーゼも幅広い品種のイチジクに含まれる酵素であることが示されました。今後は、イチジク由来コラゲナーゼの特性をさらに詳しく調査し、食品加工分野での応用の可能性を追求します。

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