食品への調味成分の浸透に関する基礎的知見の収集と調理操作への応用

背景・目的

 家庭での調理の多くは経験的な方法に則って行われています。調理の中でも、味付けは料理の出来具合に関わりますが、その多くの部分は「料理人のコツ」と呼ばれる経験的な方法に頼っています。コツは料理人の経験による面が大きく、口伝で継承されることも多いので、それぞれの料理人の料理(味付け)を正確に再現することが困難になることがあります (図1)。また、コツや経験に頼った料理方法では、味付けするときの温度、入れる調味料の量、タイミングを変えた場合に、出来上がる料理の味の変化を正確に予測しにくいのが現状です。
 この研究テーマでは、「味付け操作を上手に行い、誰が作っても同じ味付けを再現できるような調理方法を確立すること」と「味付けするときの方法(温度、入れる量、タイミングなど)が変わった時に、最終的な味の変化を予測すること」を目指し、味付けするときの温度や入れる調味料の量が、食品に浸透する調味料の量に与える影響を評価しました。

Sha2019-1.jpg図1. 料理には「勘」や「コツ」が多く、簡単には再現できないことが多い。

方法

 本研究では、食品にはコンニャクと卵白を、調味料にはグルコース(糖)と塩化ナトリウム(食塩)を用いました。コンニャクと卵白をグルコースまたは塩化ナトリウムの水溶液に浸け、これらの調味料をコンニャクや卵白ゲルに十分に浸透させました。その後、コンニャクと卵白に浸透した調味料を水で抽出し、浸透した量を決定しました。この実験を、様々な濃度のグルコースや塩化ナトリウム水溶液を使って行いました。

結果

 様々な濃度の調味料の溶液 (グルコースと塩化ナトリウム)に食品 (コンニャクと卵白)を浸漬したところ、調味料の濃度が上がると食品に浸透する調味料も増加しました。例として、コンニャクをグルコースの水溶液に浸漬した時の浸透量を図2に示します。図2から分かるように、食品に浸透した量と調味料の濃度の比率 (「分配係数」と呼ばれます)は一定となりました。このため、使う調味料の濃度が分かれば、食品に浸透する調味料の量も計算できる可能性が示唆されました(図2)。このような知見を収集することによって、家庭での調理をより簡便に行えるようになると考えられます。また、工場などで大規模に食品を製造するような場合でも、本研究で得られたようなデータ(分配係数)を蓄積することによって操作条件 (加熱温度や使う原料の量など)を客観的かつ正確に決定する (「合理的に予測する」と呼ばれます)ことができ、製品の品質を高める役割を果たすと考えられます。

Sha2019-2.jpg図2. 実験で求めた食品への調味料の浸透量と予測への応用
コンニャクをグルコースの水溶液に浸漬した時の一例

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